レーザーを用いたプラズマの生成・制御・測定に関する研究を行っています

光渦のプラズマ分光・制御への応用

 波長可変レーザーを用いたドップラー分光法は、ドップラーシフトによって広がった原子・分子のスペクトルを観測し、プラズマ中の原子温度や流速等の情報を得る分光法である。従来のドップラー分光法では、平面波で近似できるレーザー光源を用いるため、レーザーの伝播方向の運動によるドップラーシフトで広がったスペクトルが観測される。従って、得られる情報は伝搬方向の運動に限られるという強い制約があった。これまで,この制限は原理的に避けられないものとして受け入れられてきた。しかし、特異点光学等の分野で利用されている光渦と呼ばれる螺旋状の等位相面(図1)をもつ電磁波の伝搬モードを利用することで、この制限を克服できる可能性が指摘されている。

図1 光渦の等位相面

 

光渦は螺旋状の等位相面を持つため、光波中で運動する原子・分子は周方向、径方向、視線方向のドップラー効果を受ける。光渦のこの特徴をプラズマ分光に導入することで、これまで1自由度に制限されていたレーザーと原子・分子の相互作用を多自由度に拡張し、ドップラー分光法の自由度を飛躍的に向上させることを目指して研究を行っている。


計算機合成ホログラムによる光渦の生成

 

本研究では、ホログラム回折格子を用いて光渦を生成している。図2(a)は、参照光としてガウス光、物体光として光渦を仮定して計算した、計算機合成ホログラム(CGH)である。この位相変調パターンを空間位相変調器(SLM)に表示してホログラム回折格子として用いる。CGHの中心に見られる枝分かれ部分が、位相特異点を表現している。図2(a)のホログラムにガウス光を入射することで、図2(b)の光渦が1次回折光として得られる。

図2(a)光渦生成に用いるCGH、(b) 生成された光渦。

 

 

位相特異点の検出

 

光渦ドップラー分光法では、 3自由度のドップラー効果が混ざって観測されるため、自由度ごとのドップラー効果を分離して評価する方法の開発が重要な課題となる。等方なプラズマを測定対象とした場合、径方向のドップラー効果は、他の自由度のドップラー効果と比較して数桁小さいため、無視することが出来る。従って、光渦ドップラー分光では、得られたドップラースペクトルから伝搬方向と方位角方向の効果を分離して評価することが課題となる。ここで、方位角方向のドップラーシフトは特異点からの距離に反比例しているため、その評価には特異点の位置を特定する必要がある。図3(a)に、光渦とガウス光を重ねあわせることで得られた干渉縞の像を示す。図2(a)のCGHと同様の枝分かれ構造が見られる。図3(a)の干渉縞を2次元フーリエ変換し、位相の空間分布を求めたのが図3(b)である[参考文献:K. Yamane, et al., New J. Phys. 16, 053020 (2014).]。方位角方向の位相分布の中心が、位相特異点である。これにより、位相特異点の位置を求め、方位角方向のドップラーシフトを評価する際の基準とする。

図3(a) 光渦とガウス光の干渉縞、(b) 2次元フーリエ変換によって得られた光渦の位相分布。

 

実験装置

 

図4 光渦飽和吸収分光測定系

 

図4に光渦を用いた飽和吸収分光実験系を示す。テストプラズマとして,ループアンテナに供給した高周波電力(13.56MHz、10W)によって生成されたアルゴンの誘導結合プラズマを用いた。プラズマ中で生成された準安定状態のアルゴン原子を、697nmの外部共振器型半導体レーザー(ECDL)を用いて計測した。 ECDLの出力を偏光保持ファイバにカップルして光渦変換部に伝送する。偏光ビームスプリッタで、ポンプ光とプローブ光に分離し、プローブ光はSLMでトポロジカルチャージが+1あるいは-1の光渦に変換されてプラズマに入射される。 一方、ポンプ光は平面波のまま、プローブ光に対向する向きからプラズマに入射される。ECDLの波長掃引に伴うプローブ光の透過光強度変化は、波長掃引に同期したビームプロファイラによって2次元画像として記録される。また、位相特異点を検出するため、ポンプ光の一部をビームスプリッタでプローブ光に重畳させて得られる干渉縞も記録している。

 

実験結果

図5 吸収率変化のトポロジカルチャージ依存性


図5に、トポロジカルチャージ+1および-1の光渦を用いて行った、飽和吸収分光の結果を示す。トポロジカルチャージの符号は、光渦とガウス光の干渉縞の2次元フーリエ変換から得られる空間位相分布を用いて確認した(図5(a)、(e))。図5(b)、(f)に特異点近傍の光強度分布、図5(c)、(g)に吸収率分布を示す。吸収率分布の赤い部分は吸収率が大きい領域で、黒い部分は吸収率が小さい領域を示す。特異点近傍に、吸収率の小さい領域があり、波長掃引によりレーザー波長がLamb dip領域に入ると、図5(d)、(h)に示す方向に、位相特異点を中心として暗点が回転する様子が観測された。ここで、暗点の回転方向はトポロジカルチャージの符号に依存して反転することから、この現象は方位角方向ドップラー効果によるものと考えられる。現在、この吸収率変化のトポロジカルチャージ依存性から方位角ドップラー効果の成分を抽出する手法を開発している。



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